嚥下能力「飲み込む力」を保つために高齢者施設などでも取り組まれる口腔体操ですが、嚥下能力のどういった点に効果があるのでしょうか?
そんな口腔体操に関するお話です。
口腔体操とは?

唇や頬、舌を動かす運動になります。
目的として嚥下能力の維持向上ですが、他にも滑舌(かつぜつ)が悪くなってしまった人や構音障害(こうおんしょうがい)など何を言っているかわかりにくい人に対して良くするためにも口腔体操は用いられます。
具体的な動作として
- 大きく口を開ける(下顎<かがく>の下制)
- 大きく開けた口を閉じる(下顎<かがく>の挙上)
- 唇を「ウー」と尖らせる
- 唇を「イー」と引きのばす
- 頬を膨らませる
- 頬をせばめる
- 舌を前に出す(あっかんベーという風に)
- 前に出した舌を引っ込める
- 舌を左右に動かす
- 舌で上唇をなめる(舌尖<ぜっせん>の挙上)
といった具合です。
口腔体操が嚥下の過程に及ぼす効果

物を飲み込むまでの流れは上記のように5つの工程があります。
これを「嚥下5期モデル」と呼びます。
この過程のどの部分に口腔体操が当てはまるかを見ていきたいと思います。
先行期

『先行期』とは物を見て口元まで運ぶまでに至る過程のことを指します。
この期で重要となる口腔体操の項目は【1】大きく口を開ける(下顎<かがく>の下制)です。
物を口に入れる際、口を開けないと食べられないですね。
口を開けるという動作でも病気によってはかなり難しく、開けられないのに無理に開けてしまうと脱臼などの問題もあるため注意が必要です。
準備期

『準備期』は口の中に入れたものを噛む過程を指します。
この期で重要となる口腔体操の項目は【全て】となります。
噛むためには「顎」を動かす必要があるので「口を開ける閉じる」といった動作は必要です。
そして唇をしっかり動かせないと噛んでいる途中で口から物がこぼれてしまうかもしれません。また物を口に入れるさいしっかりと閉じないとこぼれてしまいますね。そのため唇の運動や頬を膨らませたり、せばめるといった運動が大切となります。
最後に舌ですが、意外かもしれませんが噛む動作に舌がとても重要です。舌は食べ物をひとまとめにするために動いているのです。
このひとまとめにする運動がなければバラバラになってしまったり、思わずのどへ物が入ってしまいムセてしまいます。そのため舌を前に動かしたり引っ込めたり左右に動かしたり挙上させる運動は大切になります。
口腔期

『口腔期』は噛んだ物をのどへ送り込む過程のことを指します。
この期で重要となる口腔体操の項目は【7.8.9.10】である舌の動きです。
口のどの動きも大切ですが一番舌の動きが大切です。
噛んだ物をのどに送り込む役割は舌が一番働いているからです。
咽頭期

『咽頭期』はのどに送られた物を食道に入れる過程です。
実は食道は常に開いているわけではなく、「ゴクン」と飲み込む瞬間のみ、食道の入口が開く構造になっています。そのため「ゴクン」と飲み込む反射が出ないと気管へ入ってしまいムセてしまいます。
そうならないように「舌」の力が必要です。
常に閉じている食道の入口をしっかり開けるためには「舌」の力が不可欠だからです。
そのため口腔体操の「舌」の項目は大切です。舌をしっかり前に出すことは舌の力を引き出すために大事な運動となります。
それ以外は関係がないかというとそうでもありません。
口腔体操の全てが咽頭期に関わってきます。
上記の通り「舌」の運動は全て咽頭期に関わっております。
では【1-6】はどうでしょうか?
【1】大きく口を開ける(下顎の下制) 【2】大きく開けた口を閉じる(下顎の挙上)では、舌骨上筋群の運動が関わってきます。
【3】唇を「ウー」と尖らせる 【4】唇を「イー」と引きのばすという運動は、咽頭期で作られる嚥下圧(飲み込む力)が逃げないように閉じる役割があります。
【5】頬を膨らませる 【6】頬をせばめるという運動は、「頬筋」の運動にもなります。頬筋は上咽頭収縮筋(のどにくっついている筋肉)ともつながっているため、頬筋が硬くなってしまうと上咽頭収縮筋の作用も鈍ってしまいます。
これらを防ぐために口腔体操が必要なのです。
まとめ
ここまでご覧いただきありがとうございます。
口腔体操が各期に対してどのような効果があるかをざっくりですがお話させていただきました。
どの期に対してアプローチしているかを把握しておくことで、効率的な嚥下訓練を実施出来ると思います。
口腔体操は自主トレーニングにも勧めやすいため、積極的に取り入れてみて欲しいと思います。
他のトレーニングとして「パタカラ体操」などもあります。
こちらもご参考にどうぞ!
日々の臨床に役立てていただければ幸いです。それでは!
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